書き割りの山の向こうは外部 ―
 
視覚表現の転換期として最も大きな発見はルネサンスの遠近法でしょう。遠近法は絵画の二次元の平面空間の地平線上に消失点を設定することで三次元的な遠近感を生じさせる手法で、一つの世界への理解の方法です。遠近法が定着してから、一方で失われた感覚もあります。外部への感覚です。遠近法に対して、これまで中村恭子と共同研究者の郡司ペギオ幸夫が示してきたのは日本画に見られる非遠近法による視点、「書き割り」です(「書き割り」は往復書簡の中で郡司によって示されています(『TANKURI: 創造性を撃つ』))。例えば琳派などの絵画によく見られる山の表現には、緑色の色面の半円の連なりを成すものがあります。遠近法を基にした現代的な写実性から見れば、幼稚な表現ともとれます。しかしこの山を、舞台背景装置の張りぼての、「書き割り」平面として捉えてみると、その風情は一変します。抽象的でありながら現実の風景を成す一枚の板の山の連なりは、裏側、つまり向こう側が無いことを示しています。このような書き割りの写実性は、視界における遠・近を問題にしません。日本画の山の向こう側は、向こう側では無い。山の背後に、全くの外部を控えているのです。山越に阿弥陀が立つ。花喰鳥がやってくる。そうした中村の作品制作による実践=研究から、本来的な人間の現実を本展覧会でご覧いただきます。


現代人が忘れかけた、
古来からの、魔法のような、リアリティ=現実

ギャラリー


作者略歴

中村恭子(なかむらきょうこ)
日本画家。
長野県下諏訪町生まれ。
2005. 東京藝術大学日本画専攻卒業
2010. 同大学院博士課程日本画研究領域修了、博士(美術)取得。
現在、新潟大学特任助教、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー、早稲田大学総合研究所招聘研究員。
著書に『TANKURI―創造性を撃つ―』(共著、水声社、2018.)など。
展覧会に、「シンビズム展」(諏訪市美術館、2018)、「中村恭子皿鉢絵巻展(Art Space Kimura ASK?、2017)、「中村恭子日本画作品展」(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2015)など多数。
 
作家ウェブサイト:KYOKONAKAMURA.JP


シンポジウム情報

 公開シンポジウム「外部を受け入れる美」

シンポジウムは感染症対策のため、定員を先着50名様までとさせていただきます。

 

[概 要]
脱創造は、人間が自分の外部を呼び寄せる、最も鮮烈な行為である。
自分の内部表現だけだというなら、それは人工知能の得意技だ。
外部を呼び寄せる技法は、藝術にとどまらず、人間の尊厳を復権させる手段ですらあるだろう。
その意味を、異分野の四人が語り尽くす。
 
[登壇者]
郡司ペギオ幸夫(早稲田大・天然知能研究)
熊倉敬聡(元慶應大・美学)
塩谷賢(早稲田大・科学哲学)
中村恭子(新潟大・日本画)
 
[期 日] 2021年3月6日(土)10:00~11:40
[入場料] 無料
[会 場] 新潟市美術館講堂